4-2.母平均はどこにある? ― 母分散がわかっている場合の区間推定

Data Science Statistics Chapter4
目次

母平均はどこにある?

マナブ先生

前回は、標本から母集団の平均や分散を推定する話をしましたね。
では今日は、もう一歩進めて考えてみましょう。
標本平均を使えば母平均を一点で推定できます。
でも、その値だけを見て、
「母平均はこれです」
と言い切ってよいでしょうか?

ユキさん

前回の話だと、標本の取り方によって平均値も少し変わりますから、
言い切るのは危ないですね。

マナブ先生

そうですね。
そこで今日は、
「母平均はこのあたりにありそうだ」
と、範囲で推定する方法を考えてみます。

まずは標本が1個だけの場合

マナブ先生

人の身長は、ある集団では正規分布に近い形になることがあります。
ここでは説明のため、ある小学生集団の身長が正規分布に従い、
母標準偏差が
$$ \sigma=7\ \mathrm{cm} $$
だと分かっているとしましょう。

マナブ先生

ただし、母平均 \(\mu\) は分かっていません。
ある小学生を1人選んで身長を測ったところ、
$$ 150\ \mathrm{cm} $$
でした。
さてユキさん。
この150 cmという値は、母集団の中でどのあたりにあると思いますか?

ユキさん

母平均が分からないので、位置そのものは分かりません。
でも正規分布なら、この図のハッチングされている
平均から±1σの範囲に約68.3%のデータが入るんでしたよね。

マナブ先生

そうです。
つまり、もし母平均が \(\mu\) なら、
$$ \mu-\sigma \le X \le \mu+\sigma $$
の範囲に約68.3%の観測値が入ります。
では今度は、観測された値が150 cmだったことから、
逆向きに考えてみましょう。

ユキさん

逆向きですか?

マナブ先生

はい。
150 cmという観測値が、母平均から±1σ以内にあると考えるなら、
母平均 \(\mu\) はどのあたりにありそうですか?

ユキさん

150 cmを中心にして、±7 cmくらいですか?
つまり、
$$ 143\ \mathrm{cm} \text{から} 157\ \mathrm{cm} $$
くらいですね。

マナブ先生

そうですね。
ただし、ここで大切なのは、
「母平均そのものが68.3%の確率でこの中にある」
と読むのではなく、
「この方法で区間を作ることを何度も繰り返したとき、
その約68.3%が真の母平均を含む」
と考えることです。

ユキさん

前回の信頼区間の考え方と同じですね。

では95%信頼区間なら?

マナブ先生

では、95%の信頼区間にしたいとします。
標準正規分布で中央95%に対応する \(z\) はいくつでしたか?

ユキさん

$$ 1.96 $$
です。

マナブ先生

そうですね。
標本が1個なら、標本平均はその1個の値そのものですから、
$$ \bar{x}=150 $$
です。
また標準偏差は、
$$ \sigma=7 $$
です。
したがって95%信頼区間の幅は、
$$ 1.96\times7=13.72 $$
ですね。

ユキさん

すると、
$$ 150-13.72=136.28 $$ $$ 150+13.72=163.72 $$
なので、
$$ 136.28\le \mu \le 163.72 $$
ですね。

マナブ先生

そうです。
かなり広い範囲ですね。

ユキさん

1人だけのデータですから、仕方ない感じがします。

もう1人測ったらどうなる?

マナブ先生

では、もう1人測ってみましょう。
2人目の身長が、
$$ 156\ \mathrm{cm} $$
だったとします。
2人の平均は?

ユキさん

$$ \bar{x} = \frac{150+156}{2} = 153 $$
です。

マナブ先生

ではここで、前に学んだ正規分布の加法性を使って考えてみましょう。
1人目の身長を \(x_1\)、2人目を \(x_2\) とします。
どちらも同じ母集団から独立に取り出されるので、
$$ X_1\sim N(\mu,\sigma^2) $$
$$ X_2\sim N(\mu,\sigma^2) $$
と考えられます。
では、
$$ X_1+X_2 $$
の平均はどうなりますか?

ユキさん

平均は足し算なので、
$$ \mu+\mu=2\mu $$
です。

マナブ先生

分散は?

ユキさん

独立なら分散も足すので、
$$ \sigma^2+\sigma^2=2\sigma^2 $$
ですね。

マナブ先生

そうです。
したがって、
$$ X_1+X_2 \sim N(2\mu,2\sigma^2) $$
です。
では、2人の平均、
$$ \bar{X} = \frac{X_1+X_2}{2} $$
ではどうなるでしょう?

ユキさん

平均値そのものは、
$$ \mu $$
ですね。
分散は、全体を2で割るので……
$$ \frac{2\sigma^2}{2^2} = \frac{\sigma^2}{2} $$
ですか?

マナブ先生

その通りです。
したがって標準偏差は、
$$ \frac{\sigma}{\sqrt{2}} $$
になります。

ユキさん

なるほど。
標本を2個にすると、標本平均のばらつきが小さくなるんですね。

2人のときの95%信頼区間

マナブ先生

今回、
$$ \sigma=7 $$
ですから、標本平均の標準偏差は、
$$ \frac{7}{\sqrt{2}} \approx4.95 $$
です。
この値を何と呼ぶか知っていますか?

ユキさん

標本平均の標準偏差……ですか?

マナブ先生

その通りです。
そして実務では、これを
  「標準誤差(standard error)」
と呼びます。
標本平均がどのくらいばらつくかを表す値です。

ユキさん

標準偏差とは違うんですね。

マナブ先生

はい。
標準偏差 \(\sigma\) は個々のデータのばらつき、
標準誤差 \(\sigma/\sqrt{n}\) は標本平均のばらつき

を表します。
ここはとても重要です。
 
では2人の場合の95%信頼区間を求めてみましょう。

ユキさん

幅は、
$$ 1.96\times4.95 \approx9.70 $$
ですね。
平均が153 cmなので、
$$ 153-9.70=143.30 $$ $$ 153+9.70=162.70 $$
です。
したがって、
$$ 143.30\le \mu \le 162.70 $$
ですね。

マナブ先生

そうです。
1人のときは、
$$ 136.28\sim163.72 $$
だったのに、2人では、
$$ 143.30\sim162.70 $$
になりました。
どう感じますか?

ユキさん

かなり狭くなりました。
標本が増えたので、推定の精度が上がったんですね。

マナブ先生

その通りです。

標本数をさらに増やしたら?

マナブ先生

では、標本数を2人ではなく、
$$ n $$
人にしたらどうなると思いますか?

ユキさん

2人のときが、
$$ \frac{\sigma}{\sqrt{2}} $$
だったので、
$$ \frac{\sigma}{\sqrt{n}} $$
になりそうです。

マナブ先生

その通りです。
母集団が、
$$ N(\mu,\sigma^2) $$
に従っているとき、標本平均 \(\bar{x}\) は、
$$ \bar{X} \sim N\left( \mu, \frac{\sigma^2}{n} \right) $$
に従います。
したがって、標本平均の標準偏差、つまり標準誤差は、
$$ \frac{\sigma}{\sqrt{n}} $$
です。

ユキさん

つまり、標本数が増えるほど標準誤差は小さくなるんですね。

マナブ先生

そうです。
では \(n\) がとても大きくなったら?

ユキさん

$$ \frac{\sigma}{\sqrt{n}} $$
は0に近づきます。
つまり、標本平均のばらつきがどんどん小さくなる。

マナブ先生

それは何を意味していますか?

ユキさん

標本数を多くすれば、
標本平均が母平均 \(\mu\) の近くに集まる
ということですね。

マナブ先生

そうです。
これが、
「たくさん測ると平均値が安定する」
理由です。

母平均の95%信頼区間

マナブ先生

ここまで来れば、一般式も自然に作れます。
母標準偏差 \(\sigma\) が分かっているとき、
標本平均は、
$$ \bar{X} \sim N\left( \mu, \frac{\sigma^2}{n} \right) $$
です。
標準化するとどうなりますか?

ユキさん

標本平均から母平均を引いて、
標本平均の標準偏差で割るので、
$$ Z = \frac{\bar{X}-\mu} {\sigma/\sqrt{n}} $$
ですね。

マナブ先生

そうです。
この \(Z\) は標準正規分布、
$$ N(0,1) $$
に従います。
では中央95%に入る条件は?

ユキさん

$$ -1.96 \le Z \le 1.96 $$
です。

マナブ先生

したがって、
$$ -1.96 \le \frac{\bar{X}-\mu} {\sigma/\sqrt{n}} \le 1.96 $$
ですね。
これを \(\mu\) について解くと?

ユキさん

$$ \bar{x} – 1.96\frac{\sigma}{\sqrt{n}} \le \mu \le \bar{x} + 1.96\frac{\sigma}{\sqrt{n}} $$
になります。

マナブ先生

その通りです。
これが、母分散が既知の場合の母平均の95%信頼区間です。

母分散が分かっている場合の母平均の区間推定

母集団が正規分布、
$$ N(\mu,\sigma^2) $$
に従い、母標準偏差 \(\sigma\) が既知であるとき、
標本平均 \(\bar{x}\) を用いた母平均 \(\mu\) の95%信頼区間は、
$$ \bar{x} \pm 1.96 \frac{\sigma}{\sqrt{n}} $$
です。

99%信頼区間では、
$$ \bar{x} \pm 2.576 \frac{\sigma}{\sqrt{n}} $$ となります。

95%信頼区間の「95%」をもう一度確認

ユキさん

ここで確認ですが、
この区間の中に母平均が95%の確率で入る、
という言い方はしないんでしたね。

マナブ先生

そうですね。
頻度論では、母平均 \(\mu\) は固定された未知の値です。
標本を取るたびに変わるのは、
$$ \bar{x} $$
そして、それを使って作る信頼区間の方です。

ユキさん

つまり、何度も標本を取り直して95%信頼区間を作ると、
そのうち約95%の区間が真の母平均を含む。

マナブ先生

その通りです。
この感覚を持っておけば、信頼区間を誤解しにくくなります。

標本数が増えると、なぜ信頼区間が狭くなる?

マナブ先生

では95%信頼区間の式をもう一度見てください。
$$ \bar{x} \pm 1.96 \frac{\sigma}{\sqrt{n}} $$
この式の中で、私たちが増やせるものは何でしょう?

ユキさん

標本数 \(n\) ですね。

マナブ先生

\(n\) を4倍にしたら、
$$ \sqrt{n} $$
はどうなりますか?

ユキさん

2倍になります。
だから、
$$ \frac{\sigma}{\sqrt{n}} $$
は半分になります。

マナブ先生

つまり?

ユキさん

信頼区間の幅も半分になります。

マナブ先生

そうです。
ここは品質管理の実務でも重要です。
推定精度を2倍にしたいなら、標本数は2倍ではなく4倍必要になる
ということです。

ユキさん

なるほど。
たくさんデータを集めればいいとはいっても、
精度を上げるにはかなり標本数が必要なんですね。

AIやデータサイエンスとのつながり

ユキさん

この「標本数が増えると推定が安定する」という話は、
AIでも同じなんですか?

マナブ先生

基本的な考え方はつながっています。
データが増えることで、偶然のばらつきの影響を小さくできる場面は多くあります。
ただし、前回の話を覚えていますか?

ユキさん

「データが多いだけでは十分ではない」という話ですね。

マナブ先生

そうです。
100万件あっても偏った標本なら、
間違った母集団を見ている可能性があります。
ですからデータサイエンスでは、
標本数が十分か
だけではなく、
その標本が母集団を代表しているか
も同時に考える必要があります。

今日の内容を整理してみよう

マナブ先生

ではユキさん、今日の一番重要な式は何でしょう?

ユキさん

標本平均の標準誤差、
$$ \frac{\sigma}{\sqrt{n}} $$
だと思います。

マナブ先生

いいですね。
これは何を表していますか?

ユキさん

個々のデータのばらつきではなく、
標本平均がどのくらいばらつくか
です。

マナブ先生

では、標本数が増えると?

ユキさん

標準誤差が小さくなり、信頼区間も狭くなる。
つまり、母平均をより精度よく推定できるようになります。

マナブ先生

その通りです。
そして95%信頼区間は、
$$ \bar{x} \pm 1.96 \frac{\sigma}{\sqrt{n}} $$
ですね。

今回のポイント

母標準偏差 \(\sigma\) が分かっている場合、標本平均 \(\bar{X}\) は、
$$ \bar{X} \sim N\left( \mu,\frac{\sigma^2}{n} \right) $$
に従います。

したがって標本平均の標準偏差、つまり標準誤差は、
$$ \frac{\sigma}{\sqrt{n}} $$
です。

標本数 \(n\) が増えるほど標準誤差は小さくなり、標本平均は母平均の近くに集まりやすくなります。

母標準偏差が既知の場合の

95%信頼区間は、
$$ \bar{x} \pm 1.96 \frac{\sigma}{\sqrt{n}} $$

99%信頼区間は、
$$ \bar{x} \pm 2.576 \frac{\sigma}{\sqrt{n}} $$
です。

そして95%信頼区間の「95%」とは、
同じ方法で標本抽出と区間推定を何度も繰り返したとき、作られた区間の約95%が真の母平均を含む
という意味です。

あなたも考えてみましょう

ある充填工程では、過去の十分なデータから母標準偏差が、
$$ \sigma=4\ \mathrm{mL} $$
と分かっています。

16本を無作為に取り出して測定したところ、平均充填量は、
$$ \bar{x}=500.5\ \mathrm{mL} $$
でした。

標準誤差は、
$$ \frac{4}{\sqrt{16}} = 1\ \mathrm{mL} $$
です。

したがって95%信頼区間は、
$$ 500.5 \pm 1.96\times1 $$
なので、
$$ 498.54\ \mathrm{mL} \le \mu \le 502.46\ \mathrm{mL} $$
となります。

では、信頼区間の幅を今の半分程度にしたい場合、標本数は何本くらい必要でしょう?

ヒントは、
$$ \frac{\sigma}{\sqrt{n}} $$ です。

次回

次回は、
4-3.母分散がわからなくても推定できる
― t分布を使った母平均の区間推定 ―
です。

推定にはいくつかパターンがあります。
それらを一つ一つ解説していきます。

シリーズ全体の目次

『品質をデータで読み解く 統計解析・データサイエンス入門』
― 品質管理の現場で使える「見る・推定する・判断する」ための統計学 ―
全体の目次はここをご覧ください。

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