登場人物

ヒトミさん
地方の大学の機械工学の学部、修士卒業。29歳
学生時代はロボットの研究をしていた。
大学院修了後、精密機器メーカに入社し、研究開発センターに配属されセンサーの研究開発を行っているが、自分が技術者としてどの方向に向かえばいいのか悩んでいる。
マナブ先生
機械工学の修士課程修了。58歳
精密機械メーカでやマーケティング課長や開発部長や品質保証センター長を経験し、現在は技術士事務所でコンサルタントを行っている。
機械と総合技術監理の技術士資格を持っている。
テクノロジー・コーチングのブログで技術士試験などの情報発信も行っている。

はじめに
これまでの対話を通じて、ヒトミさんは
技術者に求められる資質が、
・知識
・問題解決
・マネジメント
・評価
・コミュニケーション
・リーダーシップといった要素で構成されていることを理解してきました。

そして今回は、それらすべての土台となる
「技術者倫理」について考えていきます。
技術は社会に価値をもたらします。
しかしその一方で、使い方を誤れば大きな被害を生む可能性もあります。
そのとき、技術者は何を拠り所に判断すべきなのでしょうか。
今日のテーマ
- 技術者にとって「倫理」とは何でしょうか?
- なぜ倫理は「分かっているつもり」でも守られないのでしょうか?
コーチング対話
マナブ先生今日は「技術者倫理」について考えてみましょう。
これは日本技術士会も非常に重視していて、
技術士第一次試験の適性試験というものと、
技術士第二次試験でも問われる事項になっています。
ヒトミさん、「倫理」と聞いてどんな印象を持ちますか?



正直に言うと、
哲学とか道徳のようなイメージです。
少し抽象的で、仕事とは少し距離がある感じがします。



いいですね。その率直な感覚は大事です。
では、会社でよく聞く言葉に置き換えると、
何に近いでしょう?



「コンプライアンス」、でしょうか。



その通りです。
ではここで問いです。
コンプライアンスと技術者倫理は
同じでしょうか?



似ていますが、
少し違う気がします。
コンプライアンスは
「ルールを守ること」で、
倫理は
「どう行動すべきかを考えること」のような気がします。



素晴らしいですね。
では、技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)に書かれている
技術者倫理を見てみましょう。
7.技術者倫理
- 業務遂行にあたり、公衆の安全、健康及び福利を最優先に考慮した上で、社会、経済及び環境に対する影響を予見し、地球環境の保全等、次世代に渡る社会の持続可能な成果の達成を目指し、技術士としての使命、社会的地位及び職責を自覚し、倫理的に行動すること。
- 業務履行上、関係法令等の制度が求めている事項を遵守し、文化的価値を尊重すること。
- 業務履行上行う決定に際して、自らの業務及び責任の範囲を明確にし、これらの責任を負うこと。



これから技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)では
倫理をどう表現していると読み取れますか?



公衆の安全や健康、環境などを最優先に考えること、
そして法令を守り、責任を明確にすること…ですね。



いいですね。
では、その中で最も重要なキーワードは何だと思いますか?



「公衆の安全・健康・福利」だと思います。





その通りです。
ではここで考えてみましょう。
なぜ「公衆」が最優先なのでしょうか?



技術は社会に影響を与えるからです。
一人の判断でも、多くの人に影響が及ぶ可能性があるからだと思います。



いいですね。
では逆に、技術者が自分の利益や組織の都合を優先したら、
何が起きるでしょう?



技術者は一般の人にはわからない
高度な専門知識を扱っているため、
技術者が自分のために物事を進めてしまうと、
大きな事故や災害につながりかねません。



その通りです。
ではここで問いです。
「倫理は大事だ」と分かっているのに、
なぜ問題が起きるのでしょう?



…難しいですね。
分かっていても、現場では納期やコストのプレッシャーがあって、
判断を誤ってしまうのかもしれません。



いい視点です。
では、そのとき技術者に必要なのは何でしょう?



短期的な利益ではなく、
長期的な影響を考えること、
だと思います。



その通りです。
つまり倫理とは、「正しいと分かっていること」ではなく、
迷ったときに
何を基準に判断するかなんですね。
ではもう一つ。
技術士には「技術士法」という法律があって、
その中で「公益確保の責務」について記載されています。
技術士又は技術士補は、その業務を行うに当たっては、公益の安全、環境の保全その他の公益を害することのないよう努めなければならない。





この「公益」とは何を指していると思いますか?



先ほど出てきた「公衆の安全・健康・福利」、
つまり社会全体の利益、だと思います。
特定の人ではなく、多くの人にとっての安全や安心です。



いいですね。
ではここで考えてみましょう。
もし、自分の会社の製品やプロジェクトが、
その公益を損なう可能性があると気づいたら、どうしますか?



…難しいですね。
でも、まずは事実を確認して、
上司に報告すると思います。
そのまま進めるのは危険だと思うので。



いいですね。
では、そのときに大切なのは何でしょう?



感情ではなく、根拠を持って説明することだと思います。



その通りです。
ではここで、もう一つ重要な視点です。
技術者の責任は無限でしょうか?





いいえ。
自分の業務範囲を明確にしたうえで、
その範囲に責任を持つのだと思います。



素晴らしいです。
では、その責任範囲を明確にするために必要なことは何でしょう?



関係者との合意や、業務内容の明確化です。
つまり、ここでもコミュニケーションが重要になります。





その通りです。
ここまでの話を踏まえて、ヒトミさんにとって「技術者倫理」とは何ですか?



単なるルールではなく、
社会に対して責任を持って判断するための基準だと思います。
そして、その判断を行動に移す覚悟も含まれると思います。



とても良いまとめですね。
倫理は「知っているかどうか」ではなく、
「行動できるかどうか」で問われるものです。
ここまで理解できていれば、技術者として一段上の視点に立てていますよ。
また、日本技術士会には「技術士倫理綱領」というものもあり、こちらは正に技術士倫理について10項目について決められています。また今後機会があれば詳細に教えます。



ぜひお願いします。技術者倫理について決められたものがあるのには興味があります。
まとめ
- 技術者倫理とは、法令遵守にとどまらず、公衆の安全・健康・環境を最優先に判断するための基準である
- 倫理は「知識」ではなく、「迷ったときに何を選ぶか」という判断の基準であり、行動の軸である
- 技術者の責任は無限ではなく、業務範囲を明確にしたうえで責任を負うものであり、そのためにもコミュニケーションが不可欠である
あなたも考えてみましょう
- あなたにとって「技術者倫理」とは何ですか?
- もしあなたの関わる仕事が公益を損なう可能性があると分かったとき、あなたはどのように行動しますか?
次は
次回は技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)の最後のテーマ「継続研さん」です。
なぜ、技術者は学び続けなければならないのかについてコーチングが続きます。








