登場人物

ヒトミさん
地方の大学の機械工学の学部、修士卒業。29歳
学生時代はロボットの研究をしていた。
大学院修了後、精密機器メーカに入社し、研究開発センターに配属されセンサーの研究開発を行っているが、自分が技術者としてどの方向に向かえばいいのか悩んでいる。
マナブ先生
機械工学の修士課程修了。58歳
精密機械メーカでやマーケティング課長や開発部長や品質保証センター長を経験し、現在は技術士事務所でコンサルタントを行っている。
機械と総合技術監理の技術士資格を持っている。
テクノロジー・コーチングのブログで技術士試験などの情報発信も行っている。

はじめに
これまでの対話で、ヒトミさんは
「専門的学識」「問題解決」「マネジメント」について考え、
技術者に求められる力が、単なる知識や作業能力ではなく、
価値を生み出し続けるための総合的な力であることを感じ始めていました。

今回は、その流れの中で欠かせない
「評価」について考えていきます。
技術者にとって評価とは、
単に「良かった・悪かった」を判定することなのでしょうか。
それとも、もっと大きな意味を持つのでしょうか。
今日のテーマ
- 技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)における「評価」とは何でしょうか?
- 評価は、なぜ次の改善や価値創出につながるのでしょうか?
コーチング対話
マナブ先生今度は4番目の「評価」について考えてみましょう。
ヒトミさん、まず「評価」という言葉を聞いて、どんなことを思い浮かべますか?



結果を確認すること、でしょうか。
PDCAで言うと、Cの「Check」を思い浮かべます。



いいですね。
目標や実行計画を立てるPlan、そしてそれを実行するDo、その後に来るのが目標に達成したか、計画通りに進んだかを見るCheckの段階ですね。
では、その「確認」は何のためにするのでしょう?



目標を達成できたかどうかを見るため…だと思います。





その通りです。
ではもう一歩考えてみましょう。
「達成できたかどうかを見る」だけで終わったら、評価として十分でしょうか?



…十分ではない気がします。
次にどうするかにつながらないと意味が薄いですね。



素晴らしいですね。
まさにそこが大事です。
技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)には次のように書かれています。
4.評価
- 業務遂行上の各段階における結果、最終的に得られる成果やその波及効果を評価し、次段階や別の業務の改善に資すること。



この文章を読んで、ヒトミさんは何を感じますか?



評価は、単に結果を見ることではなくて、
改善につなげるためのものなんだと思います。
あと、「波及効果」まで見るというのが印象的です。



いい着眼点ですね。
では、設計や開発の評価では、どんな観点がありそうですか?



性能、コスト、安全性…
それから使いやすさや耐久性もあると思います。



そうですね。
「技術士に求められる資質能力」の解説には次のように書かれています。
- 設計及びその実現の結果は、製品等の特性(性能、使用性、安全性、環境適合性、耐久性、経済性、修復性、美観等)に係る要求事項の満足度/達成度について評価される。設計においては技術的実現性も 評価要素とされる。



ではここで質問です。
これまでの技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)の対話の中で、何が最も大切だと繰り返し出てきましたか?



あっ…「価値」ですね。



その通りです。
では、評価の本質は何でしょう?



目標や仕様を満たしたかだけではなくて、
本当に価値を届けられたかを見ること、だと思います。



素晴らしいです。
では次の問いです。
良い評価をするには、いつから準備を始めるべきでしょう?





評価するとき…ではなくて、
設計や開発の段階からだと思います。



その通りです。
では、ヒトミさんの職場では評価をどう進めていますか?



そうですね…製品の開発を行うときには、
設計試作が終わった段階でその評価をしますが、
まずは評価計画書を作成します。
評価計画書をしっかりと作らないと、
評価に漏れが生じますので、
評価計画書の審査もあります。
評価計画書ができたら、
それに従って評価を行い、
結果をまとめます。



ヒトミさんの職場ではしっかりと評価ができていますね。その通りで、評価手順の例を示します。
| 手順 | 作業の内容 | 分類 |
|---|---|---|
| 1 | 評価の目的を適切に作成する | 設計 |
| 2 | 評価目的に合った評価基準を設定する | |
| 3 | 評価基準から評価方法を規定する | |
| 4 | 評価目的~評価基準の中身を検査する | 検査 |
| 5 | 評価方法を用いて評価結果を得る | 実施 |
| 6 | 評価結果をもとに改善などを進める | 結果の利用 |



では、なぜ最初に「評価の目的」を決める必要があるのでしょう?



目的が曖昧だと、
何を基準に見ればいいのか分からなくなるからです。
評価に漏れも出やすいと思います。



その通りです。
つまり、評価は「最後の作業」ではなく、
設計の一部なんですね。
では、もし評価の目的や基準がずれていたら、
何が起きるでしょう?



問題があっても見逃すと思います。
しかも、気づかないまま次に進んでしまうかもしれません。



ヒトミさんは「ボーイング737 MAX 事故」について知っていますか?



良く知りませんが、最新式のボーイングの航空機を航空会社が購入し運行していましたが、不具合が発見されて運航停止になり、航空会社がかなり困ったということがあった、というのは聞いたことがあります。



そうですね。これには評価のミスがありました。
当時、航空機業界ではボーイング社とエアバス社の間での
新型機の開発で競争が激化しており、
ボーイング社は時間的制約からゼロからの開発ではなく、
既存のボーイング737を改造することで
開発期間の短縮を目指しました。
既存機との共通性を保つために
新しい制御方式であるMCASを追加しました。
MCASというのはManeuvering Characteristics Augmentation Systemの頭文字で、
日本語にすると起動特性強化システムになります。
しかしこのMCAS導入時に
評価プロセスの抜けがいくつかあったのです。
それを示します。
- 表向き:安全性確認
- 実態:既存機と同等として扱うこと
→ 価値(安全)ではなく、認証通過が目的化
- 単一センサ故障時の挙動評価が不十分
- 操縦者の対応可能性の検証が甘い
→ 価異常系の評価基準が甘い
- 実運用に近い条件での検証が不足
- 実際に使う人(パイロット)の負荷を考慮していない
→ システム思考の欠如
- 問題を「軽微」と判断
- 設計改善に十分反映されず
- 設計変更を行ったのに再評価をすることを怠った



この欠陥の結果、
ボーイング737 MAXは就航17か月後の2018年10月に
墜落事故を起こしてしまいました。
しかし、この時、ボーイング社の経営陣は
迅速に公の場で問題に対処せずに、
責任を回避する態度を取り、
さらに5か月後に2度目の墜落事故が発生してしまいました。
ヒトミさん、この事例から何を学べると思いますか?



安全性を確認するはずなのに、
実際には「認証を通すこと」が目的化してしまった、
ということですよね。
それだと評価そのものが歪んでしまいます。



いいですね。
では、そこからさらに何が起きたのでしょう?



異常時の評価が不十分で、
実運用に近い条件や、
使う人の負荷も
十分に見られていなかった。
それに、結果の解釈も甘くて、
改善や再評価が足りなかったのだと思います。



その通りです。
では、この事例の本質的な問題は
「技術」だったのでしょうか?
それとも
「評価」だったのでしょうか?



…評価だと思います。
技術そのものより、
評価の目的・基準・シナリオ・フィードバックが
不十分だったことが大きいと思います。



素晴らしいですね。
ではここで問いです。
ヒトミさん自身の業務で、
評価が弱くなりやすいのはどんな場面でしょう?





自分の担当部分だけ見てしまうところ
かもしれません。
性能は見ても、
実際の使われ方やその先の影響まで
十分に見切れていないことがあると思います。



いい自己分析ですね。
では、それを強くするには何が必要でしょう?



評価の段階で、
「誰にどんな価値を届けるのか」を
もう一度確認することだと思います。
それと、異常時や実際の運用条件も
最初から想定しておくことです。



その通りです。
では最後に、ヒトミさんにとって「評価」とは何ですか?



結果を判定する作業ではなくて、
価値が実現できたかを確かめて、
次の改善につなげるためのプロセスだと思います。



とても良いまとめですね。
評価を深く考えられるようになると、
技術者としての仕事の質は一段上がりますよ。
まとめ
- 評価とは、結果の良し悪しを判定するだけでなく、価値が実現できたかを確認し、次の改善につなげる活動である
- 良い評価は、開発の最後に行うものではなく、目的・基準・方法を設計段階から組み込むことで成立する
- 評価の失敗は重大な事故や信頼喪失につながるため、異常時・実運用・波及効果まで見据えることが重要である
あなたも考えてみましょう
- あなたの業務における評価は、「仕様や目標を満たしたか」を見ているだけになっていませんか?
「価値を届けられたか」まで見ていますか? - あなたが今後評価を行うとき、目的・基準・方法・フィードバックのうち、どこを特に強化すべきだと思いますか?
次は
次回は技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)の「コミュニケーション」の前半です。
「コミュニケーション」は情報をやり取りするだけなのでしょうか。








