(6)技術士に求められる資質能力(コンピテンシー):2.問題解決(後半)

PE-Competency-6
目次

登場人物

Engineer skill

ヒトミさん

地方の大学の機械工学の学部、修士卒業。29歳
学生時代はロボットの研究をしていた。
大学院修了後、精密機器メーカに入社し、研究開発センターに配属されセンサーの研究開発を行っているが、自分が技術者としてどの方向に向かえばいいのか悩んでいる。

マナブ先生

機械工学の修士課程修了。58歳
精密機械メーカでやマーケティング課長や開発部長や品質保証センター長を経験し、現在は技術士事務所でコンサルタントを行っている。
機械と総合技術監理の技術士資格を持っている。
テクノロジー・コーチングのブログで技術士試験などの情報発信も行っている。

技術士コーチ

はじめに

前回の対話で、ヒトミさんは
問題解決とは、目の前の現象に反応することではなく、
問題を定義し、課題を設定し、評価まで回していくプロセスであることを学びました。

今回はその続きとして、
「本当の問題はどう見つけるのか」
「よりよい解決策はどう生み出すのか」 という、
問題解決のさらに深い部分を考えていきます。

今日のテーマ

  • 問題解決をするときに考慮した方がいいフレームワークとして「デザイン思考」を知っていますか?
  • 問題解決で「真の問題」にたどり着くには何が必要ですか?

コーチング対話

マナブ先生

先ほど、問題解決には流れがあるという話をしましたね。
今度は、その流れをより深くする考え方として
「デザイン思考」を取り上げます。
ヒトミさん、この言葉を聞いたことはありますか?

ヒトミさん

知りませんね。
ひょっとしたらどこかで見たことがあるかもしれませんが。

マナブ先生

「デザイン思考」、英語では「Design Thinking」ですが、
これは問題解決をするときに使うことができる
フレームワークです。
以下のような5つのステップから成ります。

Step1 共感(Empathize)

単に顧客などの声を聴くだけではなく、顧客など問題の対象者と同じ視点に立ち、彼らが何を見て、どのような経験をしているのか、どれだけ困っているのかを、自分自身も同じように共感することで問題の本質が見えてくる。これにより、問題の対象者が自分でも意識をしていない潜在的な目標やあるべき姿が見えてくるため、真の問題を探し当てることができる。

Step2 問題定義(Define)

顧客などの問題の対象者が本当に解決すべき問題は何なのか、そしてそこから生み出される対応すべき課題を言語化する。

Step3 創造(Ideate)

まずは質よりも量を重視して、制約を設けず、多様な人を巻き込みながら多面的・多角的な視点でアイデアを出すことが重要。突拍子もないアイデアが革新的な発見のきっかけになる可能性がある。

Step4 プロトタイプ(Prototype)

Step3創造で出てきた多数のアイデアから、有望なものを時間をかけずに低コストで作り、目に見えるものにする。素早くのステップのテストに渡すものを作る。

Step5 テスト(Test)

Step4で作ったプロトタイプを顧客など問題の対象者に見てもらい、使ってもらい、その反応や意見をフィードバックしてもらう。そしてそこから得られた知見を使ってまたStep1共感に戻り、真の問題をさらに深堀する。

ヒトミさん

このデザイン思考も先ほどの
問題解決のフローと関係しているのですね。

技術士コーチング リフレッシュ
マナブ先生

そうです。
それでは、少し問いかけをしてみましょう。
問題解決がうまくいかないとき、
原因は何だと思いますか?

ヒトミさん

対策が悪いから…
でしょうか。

マナブ先生

それもありますね。
でも、もっと手前に原因があるとしたらどうでしょう?

ヒトミさん

もっと手前…ですか?
問題の捉え方がずれている、とかでしょうか。

マナブ先生

いいですね。そこが大事です。
では、もし「問題の捉え方」がずれていたら、
どんなに頑張ってもどうなりますか?

ヒトミさん

見当違いの対策になります。
一生懸命やっても、
根本的には解決しないと思います。

マナブ先生

その通りです。
では、
どうすれば「本当に解くべき問題」に近づけると思いますか?

ヒトミさん

現場をよく見ること…
でしょうか。
それと、
実際に困っている人の話を聞くことだと思います。

マナブ先生

いいですね。
それが、デザイン思考の最初のステップである「共感」です。
ここで質問です。
ヒトミさんは「話を聞くこと」と「共感すること」は
同じだと思いますか?

ヒトミさん

同じではない気がします。
話を聞くだけだと表面的ですが、
共感はその人の立場で感じることに近いと思います。

マナブ先生

素晴らしいですね。
では、なぜ「共感」がそこまで大事なのでしょう?

Coaching refresh
ヒトミさん

相手自身も気づいていない困りごとが見えてくるから…でしょうか。

マナブ先生

その通りです。
つまり、「共感」は「要望を集める」ためではなく、
「真の問題を見つける」ための入り口なんです。

ヒトミさん

こちら側の考えだけですと
対象者となる人たちの考えが反映できずに
独りよがりになってしまう可能性がありますね。

マナブ先生

そうですね。
「対象となる人たち」というのは良いキーワードですね。
それを言い換えるとどのような言葉が考えられますか?

ヒトミさん

今回の「技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)の問題解決」にある「ステークホルダー」という言葉でしょうか?

マナブ先生

まさにその通りです。
そして、令和5年の「技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)」の改訂で盛り込まれた文章はそこなのですよ。
最初に見た文章を再度見てみましょう。

技術士に求められる資質能力(コンピテンシー):
2.問題解決
  • 業務遂行上直面する複合的な問題に対して、これらの内容を明確にし、必要に応じてデータ・情報技術を活用して定義し、調査し、これらの背景に潜在する問題発生要因や制約要因を抽出し分析すること。
  • 複合的な問題に関して、多角的な視点を考慮し、ステークホルダーの意見を取り入れながら、相反する要求事項(必要性、機能性、技術的実現性、安全性、経済性等)、それらによって及ぼされる影響の重要度を考慮した上で、複数の選択肢を提起し、これらを踏まえた解決策を合理的に提案し、又は改善すること。
マナブ先生

このマーカーを付けた部分が、
改訂時に付け加えられた文章です。

ヒトミさん

そうですね。
2番目の「多角的な視点を考慮し、ステークホルダーの意見を取り入れながら」という部分に下線がありますね。
ただ、デザイン思考のステークホルダーの意見というのは、
ステークホルダー自身も気がついていない
「潜在的な目標やあるべき姿」ということで、
さらに深堀されているように思えます。
そこまで考えないと真の問題にはたどり着けないのでしょうね。

マナブ先生

良い観点です。
先ほど、ある製造ラインで製品の不良率が増加した問題発生について、ヒトミさんは原因を調査すると言っていましたが、
ここに「共感」というステップを入れるとどのようになりますかね?

ヒトミさん

まずは現場に行き、作業者の人に、
「どこがやりにくいですか?」
「最近何か変わったことはありますか?」
と聞くと思います。
それから、
実際の作業を見て、
どこで違和感が出ているかを一緒に確認します。

マナブ先生

いいですね。
そのときヒトミさんは、何を集めているのでしょう?

ヒトミさん

データだけでなく、現場の人の感覚や暗黙知です。
共感という作業を通じて、現場の暗黙知を引き出すことができ、表面的な現象にとどまらない根本原因の解明につながるのですね。

マナブ先生

その通りです。
では、そうして見えてきた違和感を、
次にどう扱うべきでしょう?

ヒトミさん

問題として言語化する必要があります。
何が起きていて、何がギャップなのかを整理します。

マナブ先生

いいですね。
ではその後、解決策を考える段階では何が重要になるでしょう?

ヒトミさん

すぐに一つの答えに飛びつかないことだと思います。
いくつか案を出して比較する必要があります。

マナブ先生

その通りです。
では、良い案をたくさん出すためには何が必要でしょう?

ヒトミさん

多面的・多角的な視点だと思います。
技術だけでなく、
コストや
安全性、
現場の使いやすさ
も考えないといけません。

マナブ先生

いいですね。
それがデザイン思考のStep3の「創造」の段階です。
もう一つ「技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)」の改訂の際に付け加えられた文章がありますが、これについてはどう考えますか?

ヒトミさん

「必要に応じてデータ・情報技術を活用して定義し」の部分ですね。
これは最近どんどん進化しているAIなどの技術も含めたIT技術を積極的に使っていくということですね。
AIなどに使われるのではなく、
使いこなさないといけないのですね。

マナブ先生

ある程度技術を極めたベテラン技術者は
古い技術にこだわってしまうこともありますが、
このような便利なツールをうまく活用していくことが
真の問題解決には近道なのです。
今の若い人はそのようなことがなく、
どんどんと新しい技術に取り組んでいっていますよね。

ヒトミさん

決してそのように良い点ばかりではなく、
流されてしまっている部分もあるので
気を付けないといけないと思います。

マナブ先生

ヒトミさんの経験の中で、
データや情報技術を活用した事例はありますか?

ヒトミさん

あります。
お客様の現場で、自律搬送ロボットの到達時間が不安定だという相談があったときです。
最初はセンサーの調整だけを疑っていましたが、
それでは解決しませんでした。

マナブ先生

そこで、何を変えたのですか?

ヒトミさん

センサー単体で考えるのをやめて、
走行ログ、通信ログ、作業者の動線データなどを集めて、
問題を広く捉え直しました。
その結果、
人とロボットの動線の干渉や
通信遅延、
経路制御の問題が
重なっていることが見えてきました。

マナブ先生

そのとき、ヒトミさんは何をしていたと思いますか?

ヒトミさん

問題を「再定義」していたのだと思います。
最初はセンサーの問題だと思っていましたが、
実際にはシステム全体の問題でした。

マナブ先生

素晴らしいですね。
それこそが高度な問題解決です。
では、その後どうやって解決策を作ったのですか?

技術士コーチング リフレッシュ
ヒトミさん

作業者とロボットの動線の問題や
通信遅延を考慮した制御設計、
混雑を回避する動的経路最適化という観点から、
AIによる混雑予想モデリングを導入して、
リアルタイムに経路を再計算することと、
さらには作業エリアと搬送ロボットのゾーニングを提案したりして、
問題を解決しました。

マナブ先生

素晴らしいですね。
もう、問題解決のスキルを身に着けているんですね。

ヒトミさん

現場の人にはヒヤリングやプログラムも改良してもらうなど
かなりお世話になりましたが、
これができた時は大変喜ばれて、
私もとてもうれしかったです。

マナブ先生

それはよかったですね。
このような経験を積むことで問題解決方法も身についていきますよ。
Step3の「創造」の段階で使われる技法としては
ブレーンストーミングなどもありますよね。実はこの問題解決フローとデザイン思考の話は、日本技術士会の「修習技術者のための修習ガイドブック」にも載っているもので、まさにヒトミさんが今回話してくれたのと同じような活用方法が紹介されています。

ヒトミさん

「修習技術者」というのは?

マナブ先生

技術士資格獲得を目指している技術者のことで、
日本技術士会は技術者の教育にも力を入れています。

ヒトミさん

「修習」という言葉の響きは、技術士になるために日々励んでいるという感じですね。

マナブ先生

この「修習技術者のための修習ガイドブック」には
多面的・多角的な視点でアイデアを出すための技法として
「オズボーンのチェックリスト」についても記載されています。
また、解決策が決定したら、
デザイン思考のStep4「試作」で解決策を
具体的なプロトタイプとして製作、試し運用などをする。
そして、
Step5の「テスト」で実環境にてテストしてみることが良い、
とも記載されています。

ヒトミさん

一度「修習技術者のための修習ガイドブック」には
目を通したいですね。

マナブ先生

では最後に質問です。
ヒトミさんにとって、
デザイン思考は技術者の問題解決にどう役立つと思いますか?

ヒトミさん

「相手の困りごとに近づいて、
本当に解くべき問題を見つける」
ために
役立つと思います。
そして、その後の解決策づくりでも、
多様な視点を取り入れて、
より良い案を作る助けになると思います。

マナブ先生

とてもいいまとめですね。
問題にただ反応する人は多いですが、
真の問題を定義できる人が、
価値を生み出す技術者なんです。
そして、
その価値を生み出す人に
周りの人は信頼を寄せます

まとめ

  • データや情報技術は、問題を広く捉え直し、より適切に定義するための有力な手段になる

あなたも考えてみましょう

  • あなたが最近取り組んだ問題は、本当に「解くべき問題」を定義できていましたか?
  • 解決策を考えるとき、技術だけでなく、現場・安全・コスト・社会的影響まで視野に入れていますか?

次は

次回は技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)の3番目のマネジメントの前半です。
技術者に求められる「マネジメント」とは何なのかについて
コーチングが続きます。

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