(10)技術士に求められる資質能力(コンピテンシー):5.コミュニケーション(前半)

PE-Competency-10
目次

登場人物

Engineer skill

ヒトミさん

地方の大学の機械工学の学部、修士卒業。29歳
学生時代はロボットの研究をしていた。
大学院修了後、精密機器メーカに入社し、研究開発センターに配属されセンサーの研究開発を行っているが、自分が技術者としてどの方向に向かえばいいのか悩んでいる。

マナブ先生

機械工学の修士課程修了。58歳
精密機械メーカでやマーケティング課長や開発部長や品質保証センター長を経験し、現在は技術士事務所でコンサルタントを行っている。
機械と総合技術監理の技術士資格を持っている。
テクノロジー・コーチングのブログで技術士試験などの情報発信も行っている。

技術士コーチ

はじめに

これまでの対話を通じて、ヒトミさんは
「専門的学識」「問題解決」「マネジメント」「評価」について考え、
技術者に求められる力が、
個人の知識や努力だけで完結するものではないことを少しずつ実感してきました。

そして次に出てきたのが、
「コミュニケーション」です。
技術者は、技術が分かっていれば十分なのでしょうか。
それとも、技術を他の人と共有し、価値につなげる力が必要なのでしょうか。

今日のテーマ

  • 技術者にとって必要なコミュニケーションとは何ですか?
  • 情報技術やプロジェクト管理ツールを使うとき、何に注意すべきでしょうか?

コーチング対話

マナブ先生

次は「コミュニケーション」について考えてみましょう。
ヒトミさん、
技術者にとってコミュニケーションは
なぜ必要だと思いますか?

ヒトミさん

問題解決でもマネジメントでも、
関係者の意見を聞いたり、
調整したりする必要があるからだと思います。
一人では完結しないので。

マナブ先生

いいですね。
では、技術者のコミュニケーションは、
単に「仲良くすること」でしょうか?

ヒトミさん

違いますね。
目的に向かって、
必要なことを正しく伝え合う
ことだと思います。

Coaching refresh
マナブ先生

その通りです。
では、技術士のコンピテンシーでは、
コミュニケーションをどう表現していると思いますか?

ヒトミさん

多くのステークホルダーと意見交換をして、
一緒に目標に向かうこと…
でしょうか。

マナブ先生

いいですね。
またいつものように技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)の内容を見てみましょう。

技術士に求められる資質能力(コンピテンシー):
5.コミュニケーション
  • 業務履行上、情報技術を活用し、口頭や文書などの方法を通じて、雇用者、上司や同僚、クライアントやユーザーなど多様な関係者との間で、明確かつ包摂的な意思疎通を図り、協働すること。
  • 海外における業務に携わる際は、一定の語学力による業務上必要な意思疎通に加え、現地の社会的文化的多様性を理解し関係者との間で可能な限り協調すること。
マナブ先生

まず、最初の部分はどう思いますか?

ヒトミさん

私が先ほど言ったのとほぼ同じ内容だと思います。

マナブ先生

令和5年の改訂時に付け加わった言葉がありますが、
それは何だと思いますか?

ヒトミさん

「問題解決」のところでも付け加わっていましたが、
「情報技術を活用し」の部分でしょうか。

マナブ先生

正解です。
明確かつ包摂的な意思疎通を図るために
情報技術を活用してくださいということですね。
具体的にはどのようなことが考えられますか?

ヒトミさん

単にITツールを使う、というだけではなくて、
相手に分かりやすく伝えるために技術を使う
ということだと思います。

マナブ先生

いいですね。
では、ヒトミさんの仕事でそのような場面はありますか?

ヒトミさん

あります。
例えば新製品の設計レビューをするときに、
データをグラフ化したものや説明の文章だけでなく
3次元CAD図面を投影しながら
みんなで詳細に確認をしたり、
数値シミュレーション結果も動画にして説明をしています。

マナブ先生

そのとき、なぜ3D CADや動画が有効なのでしょう?

ヒトミさん

見た人の認識がそろいやすいからです。
2次元図面だけだと、
頭の中でのイメージがずれてしまったり、
製造上の問題や
組み立てた時の干渉などの見落としが発生したりします。
それを3次元にすることで
認識の違いが少なくなります。

マナブ先生

その通りです。
では逆に、
3D CADや動画を使えば、
それだけで良いコミュニケーションになるでしょうか?

技術士コーチング リフレッシュ
ヒトミさん

…そうでもないですね。
情報が多すぎると、
かえって何を見ればいいのか分からなくなることがあります。

マナブ先生

いい気づきです。
では、情報技術を「活用する」とは、どういうことなのでしょう?

ヒトミさん

ツールを使うこと自体ではなく、
何を、
誰に、
どの順番で見せれば
伝わるかを
考えて使うこと
だと思います。

マナブ先生

その通りです。
つまり、情報技術は「見せる道具」ではなく、
「伝わる状態をつくる道具」なんです。
他に情報技術を活用している例はありますか?

ヒトミさん

プロジェクトの管理にアプリのツールを使っています。
チームみんなでそれぞれの進捗を書き込んだり、
課題点を共有できるのでいいですね。

マナブ先生

それはいいですね。それではプロジェクト管理ツールを使う上での問題点を何か感じていますか?

ヒトミさん

いろいろな情報が入っているので、
便利ではありますが、
時々本当に重要なものが埋もれてしまうのでは
という不安がよぎる時があります。
それに、入力しただけで「共有したつもり」になる危険もあります。

マナブ先生

その通りです。
ではここで問いです。
ツールに入力したことと、
相手に伝わったことは
同じでしょうか?

技術士コーチング リフレッシュ
ヒトミさん

違います。
入力はしたけれど、
相手が見ていない、
理解していない、
優先度を誤解している、
ということはあります。

マナブ先生

いいですね。
つまり、プロジェクト管理ツールとは何でしょう?

ヒトミさん

「見える化」の道具であって、
マネジメントやコミュニケーションそのものではない、
ですね。

マナブ先生

その通りです。
では、「ツール」と「対話」はどう使い分けるのがよいと思いますか?

ヒトミさん

「ツール」は記録と共有、
「対話」は理解の確認や認識合わせ
に使うのがよいと思います。
複雑な問題や重要な変更は、
やはり直接話した方がいいです。

マナブ先生

素晴らしいですね。
また、令和5年に付け加わった言葉として
「包摂的」と「協働すること」があります。
これらの重要性についてはヒトミさんは十分わかっていますよね。

ヒトミさん

はい!
でも、「包摂的」という用語は普段あまり使わないですね。

マナブ先生

「包摂」というのは広辞苑によると、
➀ある事柄を、一定の範囲に包み込むこと、
②[論理学の学術語・専門語]ある概念が、より一般的な概念に包括される従属関係。
例えば、哺乳類が脊椎動物に従属する関係、
と説明されています。

ヒトミさん

「包括」ですと「いろいろなものをひとくくり」という意味ですが、
「包摂」という言葉を使ったということは、
説明するときには「層別」や「段階別」を意識すべき、
ということなのでしょうね。

Technolog Coaching refresh
マナブ先生

いいですね。具体的にはどのようなことだと思いますか?

ヒトミさん

例えば、
設計者、品質担当、製造現場、経営層に
同じ内容を伝えるとき、
全員に同じ説明をすることは良くなく、
関心も前提知識も違うので、
同じ内容でも見せ方や言葉を変える必要がある
ということでしょうか?

マナブ先生

その通りです。
では最後に、
ヒトミさんにとって技術者のコミュニケーションとは何ですか?

ヒトミさん

情報を出すことではなく、
相手に伝わり、理解され、協働できる状態をつくること
だと思います。
そのために、口頭、文書、情報技術を組み合わせて使う必要があります。

マナブ先生

素晴らしいまとめです。
そこまで見えるようになると、
コミュニケーションは「補助な力」ではなく、
技術を価値に変える中心的な力だと分かってきますね。

まとめ

  • プロジェクト管理ツールは見える化の道具であり、対話や認識合わせを代替するものではない

あなたも考えてみましょう

  • あなたは最近のコミュニケーションで、「伝えたつもり」になっていたことはありませんか?
    それは本当に相手に伝わっていましたか?
  • プロジェクト管理ツールを使う時に注意している点は何ですか?

次に

次回は技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)の「コミュニケーション」の後半です。
海外でのコミュニケーションについて考えます。

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