(11)技術士に求められる資質能力(コンピテンシー):5.コミュニケーション(後半)

PE-Competency-11
目次

登場人物

Engineer skill

ヒトミさん

地方の大学の機械工学の学部、修士卒業。29歳
学生時代はロボットの研究をしていた。
大学院修了後、精密機器メーカに入社し、研究開発センターに配属されセンサーの研究開発を行っているが、自分が技術者としてどの方向に向かえばいいのか悩んでいる。

マナブ先生

機械工学の修士課程修了。58歳
精密機械メーカでやマーケティング課長や開発部長や品質保証センター長を経験し、現在は技術士事務所でコンサルタントを行っている。
機械と総合技術監理の技術士資格を持っている。
テクノロジー・コーチングのブログで技術士試験などの情報発信も行っている。

技術士コーチ

はじめに

前回の対話で、ヒトミさんは
技術者にとってのコミュニケーションとは、
単に情報を伝えることではなく、
「相手に伝わり、理解され、協働できる状態をつくること」 だと気づきました。

今回は、その続きとして
海外でのコミュニケーションについて考えていきます。
海外では、語学力が必要だと言われます。
しかし、本当に必要なのは語学力だけなのでしょうか。
それとも、その先にある別の力なのでしょうか。

今日のテーマ

  • 海外でのコミュニケーションに必要なものは何ですか?
  • コミュニケーションに失敗するとどのようなことが起きますか?

コーチング対話

マナブ先生

今日は、コミュニケーションの2つ目の文章を見てみましょう。
ヒトミさん、読んでみてもらえますか?

ヒトミさん

はい。

  • 海外における業務に携わる際は、一定の語学力による業務上必要な意思疎通に加え、現地の社会的文化的多様性を理解し関係者との間で可能な限り協調すること。
ヒトミさん

ですね。

マナブ先生

この文章を読んで、まず何を感じますか?

ヒトミさん

語学力が必要なのは当然として、
それだけでは足りない、ということだと思います。
現地の文化や価値観まで理解しないといけないのですね。

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マナブ先生

いいですね。
では、ここで問いです。
海外で仕事をするとき、
語学力は「目的」でしょうか?
それとも「手段」でしょうか?

ヒトミさん

「手段」ですね。
相手と意思疎通をするためのものだと思います。

マナブ先生

その通りです。
では、語学力が十分でも、
相手の考え方や価値観を理解していなかったら、
うまくいくでしょうか?

ヒトミさん

難しいと思います。
言葉は通じても、
意図がずれたり、
信頼を失ったりするかもしれません。

マナブ先生

いい視点です。
では逆に、
完璧な英語でなくても、うまく進むケースはあるでしょうか?

ヒトミさん

ありますね。
相手に伝わるように
短く、明確に、誠実に話せば
伝わることも多いと思います。

マナブ先生

その通りです。
では、ヒトミさん自身は、
語学力を高めるためにどんなことを意識していますか?

ヒトミさん

TOEICの勉強はしていますが、
実務では完璧な文法を目指しすぎないようにしています。
それより、専門用語を英語で言えるようにしたり、
短く明確に言う練習をしたりしています。

マナブ先生

いいですね。
では、なぜ「完璧さ」より「明確さ」が大事なのだと思いますか?

ヒトミさん

仕事では、きれいな英語より、
相手に正しく伝わることの方が大事だからです。

マナブ先生

その通りです。
つまり、
語学力とは「TOEICの点数が高い」や
「ネイティブのような流ちょうな英語」
ではなく、
必要な意思疎通ができる力なんですね。
こちらの考えを正しく伝えるには、
要点をシンプルな言葉にすればいいのです。
海外の人も日本人のように英語を母国語としない人に対しては
簡単な英語で話しかけてくれますし、
こちらの英語も文法的な間違いよりも
内容を理解しようとしてくれますから。

ヒトミさん

そのように思うだけでも、
少しは気持ちが楽になりますね。

マナブ先生

継続は力なりです。
今の努力を続けていきましょう。
最近は、世界第二の経済大国である
中国とのビジネスも重要になってきましたので、
中国語も勉強した方がいいかもしれませんね。

ヒトミさん

ハードルがさらに上がりますね。

マナブ先生

ではここから、もう一つ大事な点に入ります。
この文章には
「現地の社会的文化的多様性を理解し」とあります。
なぜそれが必要だと思いますか?

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ヒトミさん

同じ技術でも、場所によって受け取られ方が違うからだと思います。
現地の人たちが何を大切にしているかを知らないと、
技術的に正しくても
受け入れられないことがあるのではないでしょうか。

マナブ先生

いいですね。
では、もし
それを理解せずに進めたら、
どんなことが起きるでしょう?

ヒトミさん

反発が起きると思います。
場合によっては、プロジェクト自体が止まるかもしれません。

マナブ先生

その通りです。
では、具体的な失敗事例として、
パプアニューギニアのオク・テディ鉱山の環境問題について考えてみましょう。

露天掘り鉱山であるオク・テディ鉱山から、未処理の鉱山廃棄物がオク・テディ川に大量に排出されてしまいました。原因は、当初の計画ではダムの建設が義務付けられており、このダムは重金属などの汚染物質を沈殿させることで川に流れる汚染物質の濃度を下げる目的でした。しかし、建設途中にダムが崩壊して、再建には費用が掛かりすぎるということでダムが建設されなくなりました。

技術コミュニケーション視点での問題
  • ステークホルダーの理解不足
    ・地域住民を影響対象としか見ていない
    → 本来はプロジェクトにおける重要な存在
  • リスク定義の偏り
    ・崩壊や事故などの技術リスクは評価した
    ・住民の生活破壊といった社会リスクは評価していない
  • 合意形成の欠如
    ・住民への説明はしたが、納得は得ていない
  • 価値の不一致
    ・企業:経済価値、住民:生活価値
    → 価値の衝突
本来あるべき対応
  • 技術的対応:鉱山で金属を取り出した後に残る副産物(尾鉱:びこう)を安全に貯留・管理するための堤防型施設である尾鉱ダムの設置、環境負荷低減設計
  • 社会的対応:住民との対話、生活影響評価、補償・共存設計
マナブ先生

この事例の本質的な問題は何だったと思いますか?

ヒトミさん

企業側は川を「排出先」として見ていたけれど、
住民にとっては川が「生活そのもの」だった、
という価値観のずれだと思います。

マナブ先生

いいですね。
では、そのずれは、単なる説明不足だったのでしょうか?
それとももっと深い問題でしょうか?

ヒトミさん

もっと深いと思います。
説明しても、そもそも相手の価値を理解しようとしていなければ、
合意にはならないです。

マナブ先生

その通りです。
では、この事例から技術者は何を学ぶべきでしょう?

技術士コーチング
ヒトミさん

技術的・経済的な合理性だけで判断してはいけない、
ということです。
現地の生活や文化、価値観を理解して、
受け入れられる形にしないといけないと思います。

マナブ先生

素晴らしいです。
では逆に、現地の文化理解をしてコミュニケーションが成功して技術的に成功した、インドのデリー・メトロ建設について話をします。

インドの首都デリーでは、人口の倍増と急速な自家用車・バスの普及により、慢性的な渋滞や排気ガスによる大気汚染が深刻化していました。これを解決するために大規模都市鉄道プロジェクトとしてデリー高速輸送システム建設事業が日本の企業・技術者も参画して始まりました。

成功の鍵:文化理解に基づくマネジメント
  • 価値観の理解
    ・現地の特徴:上下関係・権威を重視、合意形成に時間がかかる、宗教・慣習の影響が大きい
    → 日本式の「効率優先」をそのまま適用せず、現地責任者を尊重し、形式的なプロセスを重視し、非公式な関係構築を重視することで信頼を得た。
  • コミュニケーションの工夫
    ・実施内容:英語+現地言語を併用し、図・写真・現物中心の説明を行い、繰返し確認することで、誤解の低減や現場の納得感を得た。
  • 現場への適応
    ・テーラリング:作業手順を現地レベルに合わせて調整したり、安全教育を文化に合わせて設計したり、スケジュールに余裕を持たせることで、現場で機能するようにした。
  • ステークホルダーとの協調
    ・信頼構築:地元住民との対話、用地問題の丁寧な対応、行政との関係構築を行った。
結果
  • インドでは異例の工期内に完成することができ、高品質・高安全性を実現し、現地から高い評価を得ることができた。
ヒトミさん

「さすが日本!」という感じですね。

マナブ先生

インドのデリー・メトロでは、
なぜ成功につながったと思いますか?

ヒトミさん

現地の文化に合わせて進めたからだと思います。
日本式のやり方をそのまま持ち込むのではなくて、
現地責任者を尊重したり、
説明の仕方を工夫したりして、
信頼を築いたからではないでしょうか。

技術士コーチング
マナブ先生

その通りです。
では、その成功を一言で表すとしたら、何だと思いますか?

ヒトミさん

「技術を持ち込んだ」のではなく、
「現地に合う形で技術を根づかせた」ことだと思います。

マナブ先生

いいですね。
では最後に、
ヒトミさんにとって「海外でのコミュニケーション」とは何ですか?

ヒトミさん

語学力だけではなく、
相手の文化や価値観を理解して、
相手に受け入れられる形で対話し、
協働することだと思います。
つまり、「通じる」だけでなく
「通じ合う」ことだと思います。

マナブ先生

とても良いまとめですね。
そこまで見えるようになると、
コミュニケーションは言葉の問題ではなく、
価値を共有し信頼をつくる力だと分かってきます。

まとめ

  • コミュニケーションの失敗は、技術的に妥当な計画でも社会的受容を失わせる一方、文化理解に基づく対話は技術を現地に根づかせ、価値創出につながる

あなたも考えてみましょう

  • グローバルに活躍するために外国語に対してどのような対応をしていますか?
  • あなたが今後海外、あるいは多様な背景を持つ人と仕事をするとしたら、
    相手の文化や価値観を理解するために何から始めますか?

次は

次回は技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)の「リーダーシップ」です。
技術者に求められるリーダーシップとは何なのでしょうか。コーチングが続きます。

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