もっともよく表れる値を考える

マナブ先生では、ここから実際にデータを見ていきましょう。
前回は、
統計解析とは、
「データから、実際に何が起きているのかを考え、
判断するための道具」
だという話をしましたね。



はい。
いきなり検定の公式を覚えるのではなくて、
まずはデータそのものを見るところから始めるんでしたね。



その通りです。
では最初に、
「得られたデータは、どのような特徴を持っているのか?」
を考えてみましょう。
まずは、とても簡単な例です。
次のデータを見てください。
$$ 2, 3, 5, 5, 7, 5, 2, 3 $$
この数字を見て、何か気づくことはありますか?



そうですね……。
5が一番多いです。



そうですね。
では、このデータを誰かに一言で説明するとしたら、
「このデータでは○○という値が一番よく出ています」
と言えますね。
その○○はいくつですか?



5です。



このように、
データの中で最も多く現れる値
を「最頻値」といいます。
英語では mode(モード) です。
データの中で、最も登場する回数が多い値





一番よく出てくる値だから、「最頻値」なんですね。
名前の通りですね。



では、少しデータを変えてみましょう。
次のデータの最頻値は何でしょう。
$$ 1, 2, 3, 4, 5, 6, 8, 8 $$



8だけが2回出ているので、最頻値は8です。



そうですね。
では、このデータを見て、
「このデータを代表する値は8です」
と言われたら、どう感じますか?



うーん……。
ちょっと違和感があります。
8が一番多いことは確かですけど、
データ全体を見ると1から8まで広がっていますから。
「中心が8」と言われると違う気がします。



そこが大切です。
最頻値は、
「最もよく現れる値」
を表すには便利ですが、
必ずしもデータ全体の中心を表すとは限りません。



なるほど。
「最も多い値」
と
「真ん中の値」
は違うということですね。



そうです。
ただし、最頻値がとても役立つデータもあります。
例えばアンケートで、
1:商品A
2:商品B
3:商品C
というように、数字を単なる記号として使っていたとしましょう。
最も多く選ばれた番号を知りたいとき、
平均を計算する意味はありますか?



ないですね。
商品Aと商品Cを平均して商品B、
というわけにはいきませんから。



そうですね。
このような場合は、最も回答数の多かったカテゴリー、
つまり「最頻値」に意味があります。



選挙の多数決なども近いですね。
一番多く票を集めた候補を見るわけですから。



その通りです。
つまり、代表値は何でも同じように使えるわけではなく、
「どんなデータなのか」
によって意味が変わります。
真ん中にある値を考える



では次のデータを見てください。
今度は小さい順に並べてあります。
$$ 1, 2, 2, 3, 3, 3, 4, 4, 5 $$
このデータについて何か気づきますか?



真ん中に3がありますね。



そうですね。
全部でいくつデータがありますか?



9個です。



9個なら、ちょうど5番目が真ん中になります。
その値は?



3です。
これは「中央値」ですよね。



よく知っていますね。
その通りです。
すべてのデータを小さい順、または大きい順に並べたとき、
ちょうど中央に位置する値
を「中央値」といいます。
英語では median(メディアン) です。
すべてのデータを大きさの順に並べたとき、
中央に位置する値
データの個数が偶数の場合は、
中央にある2つの値の平均を中央値とする。





例えば、
$$ 1, 2, 3, 4, 5, 6 $$
なら、中央にあるのは3と4ですね。
中央値はいくつでしょう?



$$ (3+4)÷2=3.5 $$
なので、3.5です。



そうですね。
ところが、中央値にも少し面白いところがあります。
次のデータを見てください。
$$ 1, 1, 1, 3, 3 $$
中央値はいくつでしょう?



真ん中は1なので、1です。



では、
$$ 1, 1, 3, 3, 3 $$
なら?



今度は3です。



2つのデータを比べて、どう感じますか?



データそのものは、それほど大きく違っていないのに、
中央値は1から3へ一気に変わってしまいますね。
何となく、この2つのデータの「中間的な値」は
2くらいのようにも感じます。



いい気づきですね。
では、
「データ全体の値を使って、中心を表す」
方法は何か思い浮かびますか?



平均でしょうか?



そうですね。
私たちが日常的に「平均」と呼んでいるものです。
「平均」にも種類がある



ただし、厳密には「平均」にもいくつか種類があります。
普段もっともよく使う平均は、「相加平均」、
あるいは「算術平均」と呼ばれます。



相加平均?
あまり聞かない言葉ですね。



そうですね。
日常生活では、単に「平均」と呼ぶことがほとんどです。
計算方法は知っていますね。



全部足して、データの個数で割る、
ですよね。



その通りです。
数式では、次のように表します。
\(x\)の上にある横線は”バー(bar)”と呼び、平均を意味します。
データを
\[
x_1,x_2,\dots,x_n
\]
とすると、平均値 \(\bar{x}\) は、
\[
\bar{x}=
\frac{x_1+x_2+\cdots+x_n}{n}
\]
\[
=\frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n}x_i
\]
となる。



\(\sum\) が出てきましたね。



見た目ほど難しくありません。
\(\sum\) は、
「全部足してください」
という記号です。
下にある \(i=1\) は1番目のデータから始めるという意味で、
上の \(n\) は\(n\)番目まで、という意味です。



つまり、
\[
\sum_{i=1}^{n}x_i
\]
は、
\[
x_1+x_2+\cdots+x_n
\]
を短く書いているだけなんですね。



その通りです。
数式は難しいことをしているのではなく、
長い説明を短く書いている場合が多いんですよ。
平均を計算してみる



では、先ほどの2つのデータで平均を計算してみましょう。
まず、
$$ 1, 1, 1, 3, 3 $$
は?



\[
\frac{1+1+1+3+3}{5}
\]
\[
=\frac{9}{5}
=1.8
\]
です。



では、
$$ 1, 1, 3, 3, 3 $$
は?



\[
\frac{1+1+3+3+3}{5}
\]
\[
=\frac{11}{5}
=2.2
\]
です。



どう感じますか?



中央値だと1と3でしたが、
平均だと1.8と2.2ですね。
どちらも2に近いので、
さっき感じた「真ん中は2くらい」という感覚に近いです。



そうですね。
平均値は、すべてのデータを使って計算するという特徴があります。
では、先ほどの
$$ 1, 2, 2, 3, 3, 3, 4, 4, 5 $$
についても平均を求めてみてください。



\[
\frac{27}{9}
=3
\]
です。
中央値も3で、最頻値も3。
この場合は全部同じですね。



そうですね。
左右に比較的バランスよくデータが並んでいる場合、
平均値・中央値・最頻値が近い値になる
ことがあります。



そうすると、やはり平均値が一番データ全体の中心を表しているのでしょうか?
平均値にも弱点がある



実は、そうとも言い切れないんです。
では次のデータの平均を計算してみましょう。
$$ 1, 2, 3, 4, 15 $$



5ですね。



このデータを知らない人に、
「このデータの代表的な値は5です」
と説明したら、どう思いますか?



少し変な感じがします。
5というデータ自体がありませんし、
ほとんどは1から4です。
15だけがかなり大きいですね。



そうですね。
では中央値は?



3です。



どちらの方が、
このデータの「典型的な大きさ」
を表しているように感じますか?



この場合は中央値の3ですね。



ここが重要です。
平均値はすべてのデータを使うため、
大きな値や小さな値が一つあるだけでも影響を受けます。
このような、他のデータから大きく離れた値を
「外れ値」と呼ぶことがあります。
一方、中央値はデータの順番だけを見ますから、
極端に大きな値や小さな値の影響を比較的受けにくい
という特徴があります。



つまり、
平均値は全部のデータを反映するけれど、
外れ値にも影響されやすい。
中央値は外れ値には強いけれど、
データの細かな値そのものはあまり反映しない。
という感じでしょうか。



その理解でいいですね。
年収ではなぜ「中央値」も見るのか



身近な例として、年収を考えてみましょう。
年収のニュースでは、
「平均年収」
と同時に、
「中央値」
が取り上げられることがあります。
なぜだと思いますか?



すごく年収の高い人がいると、平均値が上に引っ張られるからでしょうか。



その通りです。
例えば、5人の年収が、
300万円、350万円、400万円、450万円、2,500万円
だったとします。
平均年収はいくらでしょう?



$$ (300+350+400+450+2500)÷5=800 $$
なので、800万円です。



では、
「この5人の典型的な年収は800万円です」
と言われたら?



かなり違和感があります。
5人中4人は450万円以下ですから。



中央値なら?



400万円です。
こちらの方が、実態をイメージしやすいですね。



そういうことです。
だから、
平均値と中央値のどちらが正しいか
という問題ではありません。
「何を知りたいのかによって、どちらを見るべきかが変わる」
のです。
相乗平均とは?



ところで、先ほど「相加平均」と言いましたね。
平均という言葉がつくものは、他にもあります。
何か聞いたことがありますか?



相乗平均でしょうか。



その通りです。
「相乗平均」は「幾何平均」とも呼ばれます。
\(n\) 個の正の値
\[
x_1,x_2,\dots,x_n
\]
があるとき、相乗平均 \(G\) は、
\[
G=\sqrt[n]{x_1x_2\cdots x_n}
\]
です。



全部足すのではなくて、
全部掛けてから\(n\)乗根を取るんですね。



そうです。
例えば、2年間である値が、
1年目に1.2倍、
2年目に0.8倍
になったとします。
「平均すると1年間に何倍ずつ変化したと考えればよいか」
というような、倍率や成長率を平均するときに
相乗平均は意味を持ちます。



なるほど。
単なるデータの真ん中を求めるというより、
「掛け算で変化していくもの」
を平均するときに使うんですね。



その理解が大切です。
品質管理の基礎的な統計解析では相加平均ほど頻繁には出てきませんが、
成長率、比率、倍率
などを扱うときには有効です。
調和平均とは?



もう一つ、「平均」がつく代表的なものがあります。



うーん……思いつきません。



「調和平均」です。



名前は聞いたことがあります。



調和平均\(H\)は以下で計算されます。
\[
H=
\frac{n}{\frac{1}{x_1}+\frac{1}{x_2}+\cdots+\frac{1}{x_n}}
=\frac{n}{\displaystyle\sum_{i=1}^{n}\frac{1}{x_i}}
\]
で表されます。



急に難しそうになりました。



数式を見るより、例で考えた方が分かりやすいでしょう。
ある場所まで車で行って、同じ道を帰ってくるとします。
行きは時速60 km、帰りは時速100 kmでした。
往復の平均速度はいくらだと思いますか?



普通に考えると、
\[
\frac{60+100}{2}=80
\]
なので、80 km/hと言いたくなります。
でも、今この問題が出てきたということは違うんですよね。



では、なぜ80 km/hではないのでしょう?



……速度が遅い60 km/hのときの方が、
同じ距離を走るのに長い時間がかかるからでしょうか。



その通りです。
そこがポイントです。
仮に片道300 kmとして考えてみましょう。
行きは時速60 kmですから、何時間かかりますか?



5時間です。



帰りは時速100 kmなら?



3時間です。



往復600 kmを合計8時間で走ったことになります。
平均速度は?



\[
600÷8=75
\]
なので、75 km/hです。



これを調和平均の式で計算すると、
\[
2÷(\frac{1}{60}+\frac{1}{100})=75
\]
となります。



なるほど。
同じ距離を異なる速度で移動するような場合には、
普通の平均では駄目なんですね。



そういうことです。
調和平均は、
速度、効率、処理率などの「率」を平均する場面
で使われることがあります。
ただし、これから品質管理の基礎的な統計解析を学ぶうえでは、
まず相加平均をしっかり理解しておけば大丈夫です。
では、どの代表値を使えばいい?



ここまで、
最頻値、中央値、相加平均、相乗平均、調和平均
といろいろ出てきました。
ユキさん、少し混乱しましたか?



最初は、
「データの真ん中なら平均を出せばいい」
と思っていました。
でも、そう単純ではないんですね。



では、今日の話から一番大切だと思ったことを一つ挙げるとしたら?



そうですね……。
「どの代表値を使うかは、データの性質と、
何を知りたいかによって決まる」
ということでしょうか。



まさにそれです。
例えば、
最もよく現れる値を知りたい ⇒ 最頻値
データを順番に並べたときの真ん中を知りたい ⇒ 中央値
データ全体を使って中心を表したい ⇒ 相加平均
倍率や成長率の平均を考えたい ⇒ 相乗平均
速度や率を平均したい ⇒ 調和平均
というように、目的によって使い分けます。



「平均」という一つの数字だけを見て判断してはいけない、ということですね。
平均にしても3つも種類があるのですからね。





そうですね。
品質管理でも、
「平均値が同じだから問題ありません」
と簡単に言ってしまうのは危険です。
平均値だけでは、そのデータのすべては分かりません。



え?
平均が分かっても、まだ足りないんですか?



では、次の2組のデータを見てください。
$$ A:49, 50, 50, 50, 51 $$
$$ B:30, 40, 50, 60, 70 $$
どちらも平均値はいくつでしょう?



どちらも50ですね。



では、この2つのデータは同じような集団でしょうか?



全然違います。
Aは50の近くに集まっていますが、Bはかなり広がっています。



そうですよね。
では、その違いを数字でどう表せばよいでしょう?



……。
これが前回出てきた、
「ばらつき」
ですか?



その通りです。
代表値だけではデータの特徴を十分には説明できません。
データの中心と同時に、
「どのくらい散らばっているのか」
を見る必要があります。
次は、その「ばらつき」を数字で表す方法を考えてみましょう。
今回のポイント
データの特徴を一つの数字で表したものを代表値といいます。
代表的なものには、平均値・中央値・最頻値があります。
しかし、どれか一つが常に最も優れているわけではありません。
平均値はすべてのデータを使いますが、外れ値の影響を受けやすい。
中央値は外れ値の影響を比較的受けにくい。
最頻値は、最もよく現れる値やカテゴリーを知るのに適している。
大切なのは、
「どの数字を計算するか」ではなく、
「何を知りたいから、その数字を見るのか」
を考えることです。
これは、品質管理でもデータサイエンスでも変わりません。
あなたも考えてみましょう
ある工場で、2台の充填機AとBについて、
それぞれ5本の製品を測定したところ、
次の結果になりました。
充填機A:499, 500, 500, 500, 501 mL
充填機B:480, 490, 500, 510, 520 mL
どちらも平均充填量は500 mLです。
では、
「平均値が同じだから、2台の充填機の状態も同じ」
と言ってよいでしょうか?
この疑問が、次に学ぶ
「ばらつき」 につながっていきます。
次回
2-2.同じ平均でも品質は違う?
― ばらつきを表すレンジ・分散・標準偏差 ―
「ばらつき」は得られたデータの特性を表す非常に重要な指標です。
次回はそれについてマナブ先生とともに学んでいきます。
シリーズ全体の目次
『品質をデータで読み解く 統計解析・データサイエンス入門』
― 品質管理の現場で使える「見る・推定する・判断する」ための統計学 ―
全体の目次はここをご覧ください。


