登場人物

ヒトミさん
地方の大学の機械工学の学部、修士卒業。29歳
学生時代はロボットの研究をしていた。
大学院修了後、精密機器メーカに入社し、研究開発センターに配属されセンサーの研究開発を行っているが、自分が技術者としてどの方向に向かえばいいのか悩んでいる。
マナブ先生
機械工学の修士課程修了。58歳
精密機械メーカでやマーケティング課長や開発部長や品質保証センター長を経験し、現在は技術士事務所でコンサルタントを行っている。
機械と総合技術監理の技術士資格を持っている。
テクノロジー・コーチングのブログで技術士試験などの情報発信も行っている。

はじめに

前回の対話で、ヒトミさんは
「指示をこなす技術者」から「価値を創る技術者」へと視点が変わり始めました。
そして、その力の背景にあるのが
「技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)」であることも理解し始めています。 しかし、ヒトミさんの中には新たな疑問が生まれていました。
ヒトミさんなぜ、国はそこまで技術者の資質を重視しているのだろうか?
今日のテーマ
- 科学技術・イノベーション基本法とは何ですか?
- その基本法の中で科学技術者、技術士に対してどのようなことが書かれているのですか?
コーチング対話



前回、コンピテンシーについて話しましたが、その背景にある考え方について考えてみましょう。
ヒトミさん、日本という国にとって「技術者」はどんな存在だと思いますか?



資源が少ない国なので…
やはり技術や人材が強み、というイメージです。



いいですね。では、その「強み」が弱くなると、何が起きると思いますか?



産業の競争力が落ちてしまうと思います。
今でも海外に遅れている分野もありますし…。



その通りです。
では、その状況を踏まえて、
国は何をする必要があるでしょう?



技術者を育てる…でしょうか。





まさにそこです。
それを体系的に示したのが「科学技術・イノベーション基本法」です。
ヒトミさんは「科学技術・イノベーション基本法」について知っていますか?



すみませんがわかりません。



「科学技術・イノベーション基本法」は、1995年(平成7年)に施行された「科学技術基本法」が基本となって、2021年(令和3年)に改正・変更された法律です。
「科学技術基本法」は日本の科学技術政策の基本的な枠組みを与えるとともに、日本が「科学技術創造立国」を目指して科学技術の振興を推進していく上でのバックボーンとして位置づけられる法律です。
それが、時を経て、科学技術・イノベーションの急速な発展により、人間や社会のあり方と科学技術・イノベーションとの関係が密接不可分となっていることを踏まえて改訂がされました。



そんなに昔からあるものなのですね。
1995年のころは日本は1991年のバブル崩壊から抜け出そうとして必死に頑張っていた時期ですよね。
それから長い間低迷が続いていましたから、
改訂も必要になったのでしょうね。



ではここで質問です。
「技術者を育てる」といったとき、
何を育てる必要があると思いますか?



技術力…だけでは足りない気がします。
問題を解決する力とか、周りと協力する力とか…。



いいですね。かなり核心に近づいています。
ではもう一歩踏み込みましょう。
もしヒトミさんが企業の立場だったら、どんな技術者に活躍してほしいですか?



自分で考えて動ける人…ですね。
あとは、成果を出せる人。



では、その人が成果を出すためには、どんな環境や扱いが必要だと思いますか?



評価されることとか、働きやすい環境とか…。
ちゃんと認められることが大事だと思います。



その通りです。
この「科学技術・イノベーション基本法」には
国や民間事業者の責務に関する記述があります。
民間事業者は、研究開発及びその成果の実用化によるイノベーションの創出において研究者等及び研究開発の成果を活用した新たな事業の創出を行う人材の果たす役割の重要性に鑑み、これらの者の活用に勤めるとともに、これらの者の職務がその重要性にふさわしい魅力あるものとなるよう、これらの者の適切な処遇の確保に努めるものとする。



国や企業が研究や開発の人材の活用をして、
適切な処遇もしなければならないと
法律に記載されているのですね。
科学者や技術者のモチベーション向上につながりますし、
そうでないと世界から取り残されてしまうのでしょうね。



そうです。
そして科学技術・イノベーション基本法に基づき、
1996年(平成8年)から5年ごとに基本計画が策定されています。
- 第1期(平成8~12年度)
- 第2期(平成13~17年度)
- 第3期(平成18~22年度)
- 第4期(平成23~27年度)
- 第5期(平成28年度~令和2年度)
- 第6期(令和3年度~令和7年度)



第6期 科学技術・イノベーション基本計画の中の
第2章 Society 5.0の実現に向けた科学技術・イノベーション政策の中で、一人ひとりの多様な幸せ、well-being、と課題への挑戦を実現する教育・人材育成という項目があり、
技術士制度に関して、以下のような文章があります。
第2章 Society 5.0の実現に向けた科学技術・イノベーション政策
技術士制度について、関係府省が連携し、産業界等での活用促進・普及拡大に取り組みむとともに、国際的通用性の確保、若手人材の参入促進、技術士の資質・能力の向上に向けて、必要な制度の見直しを行う。



ではここで考えてみてください。
もし技術者が正当に評価されず、やりがいも感じられなかったら、何が起きるでしょう?



挑戦しなくなると思います。
新しいことにも取り組まなくなるし…
結果としてイノベーションも起きなくなる。



いい視点ですね。
そこで出てくるのが「well-being」という考え方です。



「well-being」というのは、今まで私の中では技術者とは結び付いていませんでしたが、確かに技術者が幸せでないと、その人から挑戦的で革新的な技術が出てきませんよね。
以前、well-beingについて調べたことがありますが、PERMAモデルという5つの基準があるようです。
| Positive Emotion | 楽しさや喜びなどのポジティブな感情を持つこと |
| Engagement | 夢中になって何かに深く没頭し、集中すること |
| Relationships | 他の人との良好な関係や社会的なつながりを持つこと |
| Meaning | 自分の存在意義や自分の行動の目的や意義を感じること |
| Accomplishment | 大きなことを成し遂げた達成感や成功体験 |





そうですね。これはヒトミさんが探し求めていることと近いですね。
では、その5つの要素を、今の自分の仕事に当てはめるとどうでしょう?



えっと…
集中しているときは楽しいですし、関係性も悪くないです。
でも、「Meaning・意味」は少し弱いかもしれません。
自分が何を目指しているのか、まだはっきりしていないので…。



とても良い気づきです。
では、その「意味」を見つけるためには、何が必要だと思いますか?



自分がどんな技術者になりたいかを考えること…でしょうか。



その通りです。
そして、そのヒントになるのが「技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)」です。
ではここで質問です。
ヒトミさんは、どんな能力を持った技術者が「プロフェッショナル」だと思いますか?



技術だけでなくて、
問題を解決して、
周りと協力して、
最後までやり切る人
…です。





素晴らしいですね。
それを体系化したものが、この8つのコンピテンシーです。
- 専門的学識
- 問題解決
- マネジメント
- 評価
- コミュニケーション
- リーダーシップ
- 技術者倫理
- 継続研さん
(マナブ先生はゆっくりと問いかける)



この中で、今のヒトミさんにとって、
一番伸ばしたいものはどれだと思いますか?



…問題解決と、リーダーシップでしょうか。
自分で方向を決める力がまだ弱いと感じています。



いいですね。
では次回からは、その一つひとつを「自分のものにする」ためにどうすればいいか、一緒に考えていきましょう。
知るだけではなく、自分自身で考えて、この考え方を自分のものにする必要がありますからね。



はい、ぜひお願いします。
まとめ
- 技術者に求められる資質能力は、個人の問題ではなく社会・国家レベルの課題として定義されている
- 技術者の成長には、技術力だけでなく、技術者にとっての「well-being」が重要である
- コンピテンシーは知識ではなく、自分の行動として落とし込むことで価値になる
あなたも考えてみましょう
- イノベーションを創出する上で大切なことは何だと思いますか?
- 技術者にとっての「well-being」とは何かを考えてみてください。
