登場人物

ヒトミさん
地方の大学の機械工学の学部、修士卒業。29歳
学生時代はロボットの研究をしていた。
大学院修了後、精密機器メーカに入社し、研究開発センターに配属されセンサーの研究開発を行っているが、自分が技術者としてどの方向に向かえばいいのか悩んでいる。
マナブ先生
機械工学の修士課程修了。58歳
精密機械メーカでやマーケティング課長や開発部長や品質保証センター長を経験し、現在は技術士事務所でコンサルタントを行っている。
機械と総合技術監理の技術士資格を持っている。
テクノロジー・コーチングのブログで技術士試験などの情報発信も行っている。

はじめに
今回は、技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)の2番目の項目の「問題解決」です。
前回、ヒトミさんは「専門的学識」が単に知識だけではなく、
その理解と応用、そして社会的なことまで考慮しなければいけないことを知り、
マナブ先生との会話が自分を大きくする機会だと思い始めています。

その理解を踏まえ、次に向き合うのが「問題解決」です。
今日のテーマ
- 問題解決をするときに注意をすることは何ですか?
- 問題解決にはプロセスがあるのですか?
コーチング対話
マナブ先生次は2番目の「問題解決」ですね
こちらもまずは「技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)」に書かれていることを見てみましょうか。
2.問題解決
- 業務遂行上直面する複合的な問題に対して、これらの内容を明確にし、必要に応じてデータ・情報技術を活用して定義し、調査し、これらの背景に潜在する問題発生要因や制約要因を抽出し分析すること。
- 複合的な問題に関して、多角的な視点を考慮し、ステークホルダーの意見を取り入れながら、相反する要求事項(必要性、機能性、技術的実現性、安全性、経済性等)、それらによって及ぼされる影響の重要度を考慮した上で、複数の選択肢を提起し、これらを踏まえた解決策を合理的に提案し、又は改善すること。



これを読んだ感想はどうですか?



「複合的な問題」というのが目につきました。
単純な問題は解決が簡単ですが、
私たちが普段直面するのは
様々な要素や要因が絡んだ複雑な問題ということですね。



そうですね。国際的な技術者教育・資格に関する組織であるIEA(International Engineering Alliance)のPC(Professional Competencies)において、「Complex」が「複合的」という意味ですが、これは作業者や技能者の指示された業務や明確に示された業務に対して、最上級技術者たるエンジニアが担うべき問題や業務の難度を表す用語として使われています。
これについて複合的な問題の定義の表がありますので、それを見てみましょう。
| 知識・能力の項目 | 複合的な問題 |
|---|---|
| 定義 | 複合的な問題とは、以下に示す特性のうちWP1を含み、加えてWP2からWP7まで及びEP1とEP2の中のいくつか又は全てを含む問題である。 |
| WP1:求められる知識の高さ | WK3、WK4、WK5、WK6又はWK8のうち一つ以上の、基本に帰り原理に立った分析アプローチのできるレベルの、高度の知識なくしては解決し得ない。 |
| WP2:要求事項相互の矛盾の程度 | 広範囲な又は相対立する、テクニカルな問題、エンジニアリング問題、及び他の問題を含んでいる。 |
| WP3:求められる分析の深さ | 明白な解決策がなく、適切なモデルを考案するための解析に、抽象的思考と独創性が求められる。 |
| WP4:問題に対する熟知度 | めったには直面しない問題を含んでいる。 |
| WP5:基準適用の可能性 | 専門の業務領域の基準や規範で成し遂げられる問題の範囲を超えている。 |
| WP6:利害関係者の関与範囲と、それぞれの要求の相反度合 | 広く異なる要求を有する多様な利害関係者の集団を含む。 |
| WP7:結果 | 様々な面で重大な結果をもたらす。 |
| EP1:相互依存性 | 多くの構成要素又は下位の問題を含む高度な問題である。 |
| EP2:判断 | 決定に当り判断力を要する。 |



WK3などは前回話したIEA卒業生の知識プロフィールですね。



前回の専門的学識のところでも出てきましたが、
技術的、経済的、社会的な要素の中で
利害関係者も複雑に絡み合っている問題なのですね。
確かに私が取り組んでいる技術課題も
様々な要素を検討しなければいけないものがほとんどです。
とりあえず問題解決しなければいけないと思い、
必死に取り組んでいましたが、
この文章を読むと、
問題に対してどのように取り組んでいけばいいのかのヒントが隠されているようですね。





良いところに気がつきましたね。
複合的な問題は一筋縄ではいかないので、
冷静に対応していかなければいけないのですが、
問題解決のプロセスというのを意識して取り組んでいくのが重要な点です。
問題解決の時にどのような手順で行っているのか考えてみてください。



そうですね…
まずは今向き合っている問題が何かを考えますね。
そしてそれが複合的なのであれば、
要素に分解して、
それぞれについて対策を検討します。
そして対策を実行していく…
でしょうか?



かなりいい線ですね。
まずは問題を分析することが必要です。
複合的な問題を必要に応じて
データ・情報技術を活用して
定義して、
調査して、
分析をしていきますが、
その時には以下のようなフローが有効です。





ヒトミさんは、問題と課題の違いは分かりますか?



はい。会社ではよくそれを問われます。
「問題」というのは
「目標やあるべき姿」と「現状」の差で、
その「問題」を解決するためにやらなければならないことが
「課題」です。





その通りです。
良く理解できていますね。
そしてこの課題を適切に設定する能力が
問題分析能力になります。
例えば、製品の検査工程で不良率が1%から5%に増加したとしましょう。どのように問題をとらえますか?



まずは、
検査工程と言ってもいろいろとありますので、
どの工程でどのような不良が起きているのかを調べます。
そして、
そこでの不良の原因は、
材料のロットの差なのか?
製造工程や検査工程の温度の差があったか?
製造設備あるいは検査設備の摩耗や調整ずれなど経年変化がないか?
作業者が変わっていないか?
作業条件にばらつきが発生させやすいものではないか?
などについて分析をします。





そうですね。
単に不良が増えたという現象だけをとらえて、
検査を厳しくしたり、作業者に注意を促すだけですと、
一向に不良率は良くなりませんから
まずは何が起きているのかの分析が必要ですね。
それらが問題解決フローの➀現状把握、②問題発見、③問題分析になりますね。
今のヒトミさんの回答の中で
原因解明の漏れがないようにするにはどのような手法が考えられますか?



そうですね。
先ほどは頭の中で思いついたものを述べただけですけれど、
4Mを軸に考えた方がいいと思いました。
現場の作業員など
使用される工具・機械や装置・設備
原材料や素材
製造方法やプロセス、手法



正解です。
そして問題が分かったところで次には何をしますか?



ばらつきを抑えるためには
何をコントロールすればいいのかを検討します。
材料のロットが原因なのであれば、
材料の購入元に確認しますし、
温度が原因なのであれば、
温度管理の強化、
設備の経年劣化が原因なのであれば
設備の定期校正をしっかりとやるようにしたり、
作業者や作業条件が原因なのであれば
作業の標準化を再検討します。
これらについてスケジュールを立ててクリアしていきます。



いいですね。
そして最後は結果の評価ですね。



再発防止まで検討しておきたいです。



素晴らしいです。
まとめ
- 問題解決は「現象対応」ではなく「問題の定義」から始まる
- 複合的な問題には、分解・分析・体系的思考が必要である
あなたも考えてみましょう
- あなたが今「問題」だと思っていることに関して、「現状」と「目標・あるべき姿」の差を深く考えてみて、「真の問題」を探してみてください。
- その「真の問題」を解決するためにやるべきこと「課題」は何でしょうか?
次は
次回は技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)問題解決の後半です。
問題解決に関して、
「デザイン思考」や「真の問題」にたどり着くための
さらに深い部分を考えていきます。






